「抜毛症」とは自分で無意識(または意識化)のうちに自分の毛を抜いてしまう状態で、頭皮の一部に 毛が失われた薄毛領域ができます。強迫症(OCD)の関連症群の向身体性反復行動症群に分類されます。抜毛症の患者さまは「薄毛」を改善させる目的で皮膚科、あるいは形成外科等を受診される事が多いのですが、抜毛に至る反復行動改善にアプローチ出来ないため、殆どの患者様は治療に難渋し、改善に至らない事が多く、AGA治療などでいったん治癒しても再発を繰返す患者様が多いと言われています。
抜毛する反復行動には、本人の意識下で強迫的に行う「focused」と、無意識に行う「automatic」の2つがあります。「focused」では行動前に前駆症状の自覚があり、行動後には快感、満足感、解放感を感じることから、不安、葛藤などのネガティブな感情を調整する目的での行動であると考えられています。一方、「automatic」は習慣的、無自覚に行われ、勉強中や日常生活の中で少し退屈を感じている時に起こることが特徴です。また、その両方のスタイルを伴う場合もあります。
「抜毛症」半数以上の方はうつ病を併発しており、小児期では注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症を併発している事が顕著に見られます。治療としては、認知行動療法(刺激制御法を組合せたハビットリバーサルトレーニング)と薬物治療が中心ですが、「抜毛症」を適応病名として認可されている薬剤はなく、厳密には適応外使用されているのが現状です。認知行動療法とは具体的には、抜毛行動への障壁を高める為に常時帽子や手袋等を着用させ(刺激制御)、抜毛の衝動行動を患者自身が理解し(気づきのトレーニング)、さらに拮抗行動(両手を固く握り締める等)を繰り返し行っていくのですが、現実的には簡単には行かない事が多いと言われています。
欧米では認知行動療法に加え、TMS治療によるニューロモデレーション効果で「抜毛症」の治療効果を高める治療がスタンダードになっております。TMS治療は脳科学的なアプローチで低活動になった前頭前野を賦活化させ、「抜毛症」の問題行動を制御する治療効果が期待できます。抜毛症の患者さまへは 安全で低侵襲なTMS治療よる早期の改善で、うつ病等の併発疾患への移行の予防にも繋がると期待されています。